巨匠カルロス・クライバーの電撃公演
あの伝説に残る、1992年ウィーン・フィル・ニューイヤーコンサートの直前、1991年10月に行なわれたコンサート。クライバーの演奏は、予測不可能な展開を見せることで有名だが、この度の演奏は違った意味で予想外のものだ。渦巻くような演奏を強調するのではなく、一つ一つのサウンドの質、アンサンブルを緻密なまでに仕上げてゆく。クライバーがウィーン・フィルに求めるサウンドを丁寧に確かめるかのような演奏だ。もちろん、単なるニューイヤー・コンサートのリハーサル的な公演として片付けてしまうにはあまりに質の高い演奏会だが、クライバーの思いの中にはこの演奏会で確かな手ごたえをつかんで、ニューイヤーに臨みたいという試算があったはずだ。「リンツ」やブラームス2番という初収録の演目を選んだのもそのことの説明となるであろう。実際この演奏会で成功し、あのニューイヤー・コンサートの演奏が生まれたのであろう。
カルロス・クライバーの指揮棒が語るもの
モーツァルトがわずか数日で仕上げたといういわく付きの「リンツ」交響曲と、ブラームスが珍しく喜びを爆発させた交響曲2番のカップリング。 実は小生、これらの演奏のCD版を既に持っていたのだが、クライバーがどんな指揮をしていたかに興味を持ちDVDまで買った次第。 結論。とても意外でした。 リンツの第1楽章や第4楽章のリズミカルな曲調にはほとんど棒を振らず、VPOに任せきっているのだ。むしろ抑制の効いた第2楽章での集中力が凄まじい。クライバーが音の1つ1つよりも音楽としての流れをコントロールしていることがよくわかる。 ブラームスでもその傾向は変わらない。ブラームスには珍しい華やかなフィナーレでは、テンポが必要以上に遅れないようにだけ細心の注意を図っていることが展開部の後半で読みとれる。音楽に溺れずに、かといって無関心に流さないように・・・晩年に近くなったクライバーの棒は、もはや目の前のオーケストラを振っているのではなく、彼の頭の中で鳴っている音楽を虚空に描いているようだ。そしてオケもクライバーのテレパシーのようなものに操られているような錯覚を覚える。不思議な光景である。 とにかく、VPOとクライバーという超一流がどんなに自然にさりげなく質の高い演奏をしているか、是非耳だけでなくその目で確かめられたい。
ユニバーサル ミュージック クラシック
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