思考を深める技術やそのトレーニング方法などを、著者が得意とする哲学の知見から論じた書。とくに事件や社会情勢などが縦横に読み解かれていて、評論としても楽しめる1冊になっている。 なかには「仮構された同質性」、「パラダイム・チェンジ」といった難解な言葉も登場するが、基本的には「命題化」、「比較」、「前例」、「極論」などのなじみのある思考様式が中心になっている。そこから「命題化するというのは枠組みをつくることだ」、「命題を立て直すと別な答えが出てくる」、「答えを出すときは自分に無関心な姿勢で臨むのが有効だ」といった思考の技術やアドバイスが唱えられている。 面白いのは、記述のなかで「自分の亭主が浮気したり、あるいは子どもが新興宗教にハマったり」といった極端な思考例がたくさん飛び出してくるところだ。最近凝り固まった発想しかできなくなった、という人には刺激になるはずである。また、ある宗教の信者の思考や共産主義の教義、官僚の前例主義、右翼と左翼のバランスなど、さまざまな思考の形を説き明かしてくれるのも興味深い。 こうして答えられないような極端な設問を立てたり、奇想天外な問題に立ち向かったりして、普段から頭を「ハード・ワーク」させておくことが思考の訓練になる、と著者は説く。扱われている時事ネタがやや古く感じられるのは残念だが、自由な発想や深い思考法について、多くの例を見せてくれるのが本書の大きな魅力である。(棚上 勉)
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